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東京地方裁判所 昭和47年(ワ)4107号 判決 1979年2月27日

原告 全逓信労働組合

被告 国

訴訟代理人 浜秀和 桜井卓哉 外七名

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一申立

一  請求の趣旨

1  昭和四七年(ワ)第三四二九号事件(以下「甲事件」という。)

(一) 被告は、原告に対し、金一〇〇万円及びこれに対する昭和四七年五月二日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

(二) 訴訟費用は被告の負担とする。

(三) (一)につき仮執行宣言

2  同第四一〇七号事件(以下「乙事件」という。)

(一) 被告は、原告に対し、金一〇〇万円及びこれに対する昭和四七年五月二四日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

(二) 仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  甲事件

(一) 原告の請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

2  乙事件

(一) 原告の請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

(三) 担保を条件とする仮執行免脱宣言

第二主張

一  主位的請求原因

1  原告は、郵政省に勤務する労働者を主体として組織する労働組合である。

2  (一) (甲事件)

原告組合新宿支部(以下「新宿支部」という。)は、昭和四五年七月一〇日、被告との間で、新宿郵便局(以下「新宿局」という。)庁舎一階に設置された掲示板を組合活動のために無償で借受け使用する契約を締結し、原告組合東京空港支部(以下「空港支部」という。)は、昭和四二年八月九日、被告との間で、東京空港郵便局(以下「空港局」という。)庁舎一階に設置された掲示板を組合活動のために無償で借受け使用する契約を締結した。

(二) (乙事件)

原告組合静岡支部(以下「静岡支部」という。)は、昭和四二年六月一九日、被告との間で、静岡郵便局(以下「静岡局」という。)庁舎一階に設置された掲示板を組合活動のために無償で借受け使用する契約を締結した。

3  新宿局、空港局及び静岡局の別紙文書撤去一覧表撤去者欄記載の者は、同表撤去日欄記載の日に、それぞれ新宿支部、空港支部及び静岡支部が右各局庁舎一階の各掲示板に掲示していた同表撤去文書欄記載の文書を一方的に撤去した。

4  被告は、前記2の各契約に基づき原告に前記各掲示板を使用させる義務を負担しているところ、前記3の各撤去行為によりその義務に違反し、原告は、被告の右債務不履行により名誉、信用、組合活動の自由等を侵害され、無形の損害を受けた。その損害を金銭に見積れば、甲、乙両事件につきそれぞれ一〇〇万円を下らない。

5  よつて、原告は、被告に対し、被告の債務不履行による損害の賠償として、甲事件及び乙事件につき各金一〇〇万円及びこれに対する右不履行の日より後である昭和四七年五月二日(甲事件)又は同月二四日(乙事件)から各完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める。

二  予備的請求原因

1  仮に原告の本件各掲示板使用権が契約に基づくものでなく、各郵便局長の許可によるものであつたとしても、原告は、前記一1のような労働組合であるところ、被告は、新宿支部、空港支部及び静岡支部が右各掲示板に掲示した文書を右各支部の意に反して一方的に前記一3のとおり撤去した。

2  右撤去行為は、国の公権力の行使に当る郵政職員がその職務を行うについて故意によつて違法になしたものであり、右行為によつて原告は、名誉、信用、組合活動の自由等を侵害され、無形の損害を受けた。その損害を金銭に見積れば、甲、乙両事件につきそれぞれ一〇〇万円を下らない。

3  よつて、原告は、被告に対し、被告の右撤去行為を原因とする国家賠償として、甲事件及び乙事件につき各金一〇〇万円及びこれに対する右行為の日より後である昭和四七年五月二日(甲事件)又は同月二四日(乙事件)から各完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める。

三  主位的請求原因に対する答弁

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実は否認する。

郵便局庁舎は、国有財産法第三条の国の行政財産であり、同法第五条及び郵政省設置法第四条により郵政大臣の管理にかかるものであるが、郵政大臣は、所管行政財産の管理を行うことを目的として郵政省庁舎管理規程(昭和四〇年一一月二〇日公達第七六号。以下「規程」という。)を制定し、これに基づき、庁舎等における掲示物の掲示は原則として禁止するとともに、例外的に許可することができることとし(規程第六条)、さらに、その運用通達である「郵政省庁舎管理規程の取扱いについて」(昭和四一年三月一〇日郵官秘第二六二号。以下「運用通達」という。)により、掲示申出ごとの許可に代えてあらかじめ一括的に許可することもできることとした。そして、新宿支部長から新宿局長宛昭和四二年三月三〇日付で、空港支部長から空港局長宛同年八月一日付で、静岡支部長から静岡局長宛同年六月一六日付でそれぞれ各郵便局庁舎内での一括的掲示許可願が提出されたので、庁舎管理者たる右各局長が規程及び運用通達に基づき、新宿局においては昭和四五年七月一〇日、空港局においては昭和四二年八月九日、静岡局においては同年六月一九日それぞれ許可したものである。

3  同3の事実は認める。

4  同4の事実は否認する。

四  予備的請求原因に対する答弁

請求原因1の事実は認め、同2の事実は否認する。

五  抗弁(予備的請求原因に対し)

1  新宿局長、空港局長及び静岡局長は、前記三2のとおり規程第六条に基づき掲示許可を行つたが、右許可に際し、規程第八条及び第一二条並びに運用通達に基づき掲示物の内容が(一)法令違反にわたるもの、(二)政治的目的を有するもの、(三)郵政事業若しくは官職の信用を傷つけるようなもの又は(四)人身攻撃にわたるものは掲示しないこととの条件を付した。

2  本件各掲示物は、別紙文書該当条件一覧表記載のとおりそれぞれ前記1(一)ないし(四)の条件に該当した。

3  新宿局長、空港局長及び静岡局長は、それぞれ次のように別紙文書撤去一覧表撤去者欄記載の者に指示して右各文書を撤去した。

(一) (新宿局関係)

昭和四六年一一月二六日、同局の組合掲示板に別紙一の文書が掲示されていたので、庶務課長村田理一が同支部青年部長井島末雄に対し、右文書は佐藤内閣打倒などの表現があり許可条件に反するので直ちに撤去すべき旨命じ、あわせて午前一〇時までに撤去しないときは局側において撤去すると申し渡したが、右文書は撤去されなかつた。同日午前一〇時一〇分頃、村田庶務課長、同課長代理山根義久及び同課主事岩田克也が右文書を撤去するために掲示板所在場所に赴いたところ、同支部副支部長長屋実雄ほか四名の者が掲示板の前に立ちはだかるなどして撤去を妨害したため、村田課長は、同副支部長に対し再度掲示物が許可条件に反するから直ちに撤去すべき旨を命じたが、組合側は従わなかつた。そこで、翌二七日、村田課長らが右文書を撤去し、庶務課に保管した。その後、同月二九日、同支部書記長上原実及び執行委員有井功が村田課長に対し右文書を返還してほしい旨申し出たので、同課長は、右文書は佐藤内閣打倒などの表現があり、許可条件に反するから再度掲示しないよう注意して、返還した。

(二) (空港局関係)

(1) 昭和四六年一一月八日、同局の組合掲示板に別紙二の文書が掲示されていたので、庶務会計課長代理浜尾久は、これを撤去し、同課に保管した。その後同支部副支部長安河内正紀が同課長代理に右文書の返還を要求したので、同課長代理は、「許可条件に反するから撤去した。再度掲示しなければ返還する。」と述べたが、同副支部長が再掲示の意向を示したので返還を見合せた。

なお、同月五日にも同種の文書が掲示され、同月六日に浜尾課長代理が同支部大沢書記長に対して警告したが、組合側が応じなかつたため、局側で撤去した経緯があつたので、本件は、改めて警告する必要がないものと認めた。

(2) 同月九日、同局長横山曠大は、同支部長佐藤良一に対して許可条件に反する掲示物を掲示しないよう注意を促した。

しかるに、同日、右掲示板に別紙三の文書が掲示されていたので、浜尾課長代理が即日これを撤去し、庶務会計課に保管した。

(3) 同月一〇日、右掲示板に別紙四の文書が掲示されていたので、庶務会計課主事村岡学及び同角田繁がこれを撤去し、同課に保管した。その後同月一二日、保管中の右文書並びに別紙二及び三の各文書について今後掲示しないよう注意して、同支部に返還した。

(4) 同月一八日、右掲示板に別紙五の文書が掲示されていたので、浜尾課長代理は、佐藤支部長に対し文書の内容が佐藤内閣打倒など許可条件に反するから撤去すべき旨命じたが、撤去されなかつたので、同課長代理がこれを撤去し、庶務会計課に保管した。その後安河内副支部長ほか二名の者が同課長代理に対して右文書の返還を要求したので、同課長代理は、許可条件に反するから再掲示しないよう述べたが、同副支部長らが再掲示の意向を示したので、返還を見合せた。

(5) 同月一九日、右掲示板に別紙六の文書が掲示されていたので、佐藤運行課副課長及び同課長代理川口勝がこれを撤去し、局長室に保管した。

(6) 同日、右掲示板に別紙七の文書が掲示されていたので、浜尾課長代理及び運行課長重沢章がこれを撤去し、庶務会計課に保管した。同日、横山局長は、佐藤支部長に対し許可条件に反する掲示物を掲示しないよう注意して、保管中の右文書並びに別紙五及び六の各文書を返還した。

(7) 同月二五日、右掲示板に別紙八の文書が掲示されていたので、浜尾課長代理及び庶務会計課主事市川和夫がこれを撤去し、同課に保管した。その後同支部執行委員井出久義及び同井口伸司らが同課長代理に対して右文書の返還を要求して来たので、同課長代理は、「許可条件に反するから再掲示しなければ返す。」と述べたが、井出執行委員らが再掲示の意向を示したので、返還を見合せた。

(8) 同日、右掲示板に別紙九の文書が掲示されていたので、浜尾課長代理がこれを撤去したが、その直後井出執行委員によつて右文書は奪われた。

(9) 同月二六日、右掲示板に別紙九の文書が再び掲示されていたので、運行課副課長宮本泰志がこれを撤去し、庶務会計課に保管した。同日、横山局長は、佐藤支部長に対し保管中の右文書及び別紙八の文書を示し、このような許可条件に反するものは今後掲示しないよう注意し、浜尾課長代理から同支部に右各文書は返還された。

(三) (静岡局関係)

(1) 昭和四七年四月一八日、同局の組合掲示板に別紙一〇の文書が掲示されていたので、庶務課長庄司明が同支部書記長真島敏に対し「掲示板に掲示したストライキ宣言は許可条件に反するので、午後七時一〇分までに撤去しなさい。」と命じたが、同書記長は、これに応じなかつた。そこで、翌一九日、庶務課長代理望月久次は、同書記長に対し「ストライキ宣言を直ちに撤去しなさい。組合で撤去しない場合は省で撤去する。」と通告したが、同書記長が応じなかつたので、同課長代理並びに宇佐美及び斉藤各庶務課主事がこれを撤去し、同課に保管した。

(2) 同日、右掲示板に再度右同様の文書が掲示されたので、同課長代理が同書記長に対し「許可条件に違反するストライキ宣言が再度掲示されたのは遺憾である。直ちに撤去されたい。組合で撤去しない場合は当方で撤去する。」と通告したが、同書記長は、これに応じなかつたので、同課長代理らがこれを撤去し、庶務課に保管した。

(3) 同月二〇日、右掲示板に右同様の文書が掲示されたので、同課長代理は、同書記長に対し「ストライキ宣言は法にふれるものであるので、今までその都度撤去を申入れてきたが、組合が撤去しないので、省で撤去してきた。三度目である。直ちに撤去されたい。今後くり返し掲示されれば、発見次第省で撤去する。」と通告したが、同書記長が応じなかつたので、同課長代理らがこれを撤去し、庶務課に保管した。

(4) 同日、右掲示板に右同様の文書が掲示されたので、同課長代理らがこれを撤去し、庶務課に保管した。

(5) 同月二一日、右掲示板に別紙一一の文書が掲示されたので、庄司庶務課長ら四名でこれを撤去しようとしたが、多数の組合員がこれを妨害したため撤去できず、一旦引揚げた後同課長らがこれを撤去し、庶務課に保管した。右文書及び前記(1)ないし(4)の各文書は、同月二六日、同課長から同書記長に返還された。

六  抗弁に対する答弁

1  抗弁1の事実は認める。

2  同2の事実は否認する。

本件各文書は、いずれも次のとおり原告主張の条件に違反しない。

(一) (新宿局関係)

別紙一の文書全体をみると、組合の置かれている状況について詳細に述べた上、闘争における四つの重点目標をかちとり、それと共に、「佐藤自民党政府を糾弾し」、「沖縄協定紛砕、佐藤内閣打倒、日中国交回復の勝利へむけ」戦うことを宣言するものであつて、それ自体として佐藤内閣の打倒を呼び掛けるものではなく、全体の文脈の中では佐藤内閣打倒という文言は、取立てて重要な部分ではない。したがつて、この部分をもつて、右文書が庁舎の秩序維持に支障があるとはいえない。

(二) (空港局関係)

労働組合がその集会においていかなるスローガンを掲げ、いかなる論議をし、いかなる決議をするかは、その自由に委ねられており、したがつて、いかなる集会を開催するかを組合員に周知させることもまた自由であるというべきところ、別紙二ないし九の文書は、すべて同支部執行委員会による職場集会、決起集会等の開催周知のためのものであり、このことは、どの文書にも集会の場所及び時間が記載されていることから明白である。また、各集会には「十一・一〇沖縄スト連帯職場集会」、「十一・一九支部総決起集会」等の名称を付して、集会の趣旨を明らかにしている。したがつて、右各文書中の「佐藤内閣打倒」、「佐藤反動内閣打倒」、「反動佐藤政府打倒」、「横山の暴力的職場支配粉砕」及び「横山の野望粉砕」の各文言は、集会におけるスローガンであつて、集会では、これらのスローガンの下に組合員の意識統一を図ろうとするものであることを各集会の開催周知の文書に記入して掲示したものである。右各文書により庁舎内において政治的目的をもつた宣伝活動をする趣旨のものでも、官職の信用失墜又は人身攻撃をする趣旨のものでもないことは、明らかであつて、右各文書が庁舎の秩序維持に支障があるものとは考えられない。

次に、別紙四の文書中の「官、横山は二度にわたり、このビラを盗み、組合に帰してきません、全逓組合員の皆さん!!この横山の強奪を許すな!!」との部分は、横山局長が組合掲示板から別紙二及び三の文書を一方的にはぎ取り、それを組合に返して来ないことを組合員に訴えて、そのような勝手なことを許さないようにしようと呼び掛ける趣旨のものである。別紙二及び三の文書は、許可条件に反していないから、これを一方的に撤去した同局長の行為は正当な行為でなく、厳しく非難されてもやむをえない。また、仮に撤去が正当な行為であつたとしても、許可条件は、当局が一方的に付したもので、組合の承認したものでないこと、右各文書の一方的撤去は、組合活動を著しく阻害するものであること、当局側は、撤去に当つてその具体的理由を明らかにしていないこと等の事情の下において、一方的撤去が不当であるとして当局側の措置を非難することは当然のことである。さらに、「このビラを盗み」との表現は、文字どおり盗取を意味するものではなく、一方的に文書を撤去し、それを返還しないことを厳しく非難する趣旨で用いられていることは文書の記載自体から明らかである。

別紙九の文書は、決起集会開催周知用の文書をはがし、組合に返して来ないことを「正当な組合活動を妨害」したものとして非難し、このような一方的な掲示物の撤去と返還拒否とは「全逓組織破壊攻撃の一環」というべきであり、「暴力」ともいうべきものだとの見解を示したものである。掲示物の一方的撤去は、組合活動に対する不当な妨害であるから、これを右のような表現で非難する右文書の記載には問題はない。また、許可条件は、一方的に付されたもので、組合側は承諾していないから、その一方的撤去を正当な組合活動に対する妨害と非難することは当然であるし、仮に許可条件が適法としても、それは庁舎の秩序維持のためにのみ認められているものであるところ、掲示物の一方的撤去及び返還拒否を前記のような表現で論難しても、庁舎の秩序維持にとつて何らの支障ともならない。

(三) (静岡局関係)

別紙一〇の文書には、「公労協のゼネストによつて要求貫徹まで斗い抜くことを宣言する」との文言があるが、その主たる狙いが原告の上部機関たる公労協が決定した「ストライキ宣言」の存在する事実を同支部の組合員全員に周知させて同支部組合員全体の志気を高揚させ、団結を強固にするにあることは明らかであり、右文書により具体的にストライキを指令したり、ストライキに加わることを訴えたものでもない。また、別紙一一の文書は、その趣旨が一層明らかである。

3  同3の(一)ないし(三)の各事実は、(二)(1)後段の点を除き、認める。

七  再抗弁

1  郵便局に勤務する職員は、憲法第二八条の勤労者であり、同条により自己が勤務する場所において組合活動を行う権利が保障されている。そして、憲法第二九条の公共の福祉には、前同条の要請も含まれているから、庁舎の管理者は、右要請に従い、庁舎の用途及び目的を著しく妨げない限り、組合活動のために施設を貸与し、自由に使用させなければならない。また、組合活動がビラ等による教宣活動のように外部的な表現を伴う場合に、その内容を庁舎管理者が事前に規制することは、支配介入の不当労働行為に該当するばかりでなく、組合が有する表現の自由の侵害にもなり、憲法第二一条第二項により禁止されている。

しかるに、規程は、庁舎内における表現活動に対し一般的な許可制をとり、許可の是非についての判断権を庁舎管理者に全面的に委ね、許可等の基準に関する文言は、庁舎管理者の恣意的判断によつて左右されるような「庁舎等における秩序維持等に対する支障の有無」となつており、許可をする場合においても庁舎管理者の一方的な条件の付与を許容し、その条件に違反した場合の庁舎管理者の一方的撤去、搬出までも容認している。また、運用通達は、文書の掲示に対し、何らの合理的根拠もなくして、その内容が法令違反にわたるもの、政治的目的を有するもの、郵政事業もしくは官職の信用を傷つけるようなものまたは人身攻撃にわたるものは、庁舎等における秩序維持等に支障があるものとみなしている。しかし、そもそも国有財産法第一八条第三項では許可に条件を付することは認められていないし、庁舎管理者には憲法第二八条の要請により、郵便局庁舎の企業としての用途及び目的を妨げない限り、労働組合に対する掲示板貸与等を許可することが義務づけられ、これを拒否する裁量権がないので、条件は付しえないものである。

したがつて、規程、運用通達及びこれに基づいて付せられた条件は、労働組合の団結権及び表現の自由を侵害し、組合に対する支配介入の不当労働行為を構成するから、憲法二一条及び第二八条、労働組合法第七条に違反して無効であり、これに基づいてなした各局職員の本件各文書撤去行為は違法である。

2  仮に規程及び運用通達が適法であり、本件各文書が許可条件に違反したとしても、いずれもこれを一方的に撤去することが許されないものである。

庁舎管理者が許可条件違反の掲示文書を一方的に撤去することは、言論そのものを禁圧することを意味し、労働組合の言論活動の自由と自主性を著しく損うこととなる。したがつて、掲示文書の内容が庁舎の秩序を乱したとしても、その程度が著しく、言論そのものを禁圧しなければならないだけの緊急の必要性ないし重大かつ明白な違法性が認められる場合でない限り、撤去は、団結権を侵害するものとして許されない。

本件各文書は、いずれも文書の内容の一部に許可条件に違反するものがあるというにすぎず、違反の程度は極めて軽微で、庁舎の秩序維持に何らかの支障を及ぼすおそれはほとんど考えられず、これを撤去しなければ、庁舎の秩序維持がはかれないというようなものではない。

したがつて、本件各文書を撤去した行為は、原告の組合活動を違法に侵害したものである。

八  再抗弁に対する答弁

いずれも争う。

第三証拠(甲・乙事件)<省略>

理由

第一主位的請求原因について

一  請求原因1の事実は、当事者間に争いがない。

二  原告は、新宿支部、空港支部及び静岡支部がそれぞれ被告との間で新宿局、空港局及び静岡局庁舎内の掲示板を組合活動のために無償で借受け使用する契約を締結した旨主張する。

成立に争いのない乙第二、三号証の各一ないし三、第四号証の一ないし四、第五、六号証の各一、二によれば、次の事実が認められる。

1  新宿支部長高橋友一は、昭和四二年三月三〇日、新宿局長会田恵吉に対し「ビラ・ポスター類を新宿支部として恒例的に掲示したいので許可されたい」と記載した「掲示許可願」と題する文書を提出し、これに対し、同局長は、同日、同局庁舎内の掲示板に文書を掲示することを一括的に許可したが、さらに、その後の庁舎の模様替に伴い昭和四五年七月一〇日、同局長加藤栄造から同支部長宮沢重喜宛に「掲示の一括的許可については、下記によりこれを許可する」とし、記中で掲示場所を同局庁舎一階の掲示板と指定した「掲示許可書」と題する文書を交付した。

2  空港支部長田渕功は、昭和四二年八月一日、空港局長佐藤重雄に対し「ビラ・ポスター類を同支部名として恒例的に掲示したいので許可願います」と記載した「掲示許可願」と題する文書を提出し、同月九日、同局長から同支部長宛に「掲示の一括的許可については、下記によりこれを許可する」とし、記中で掲示場所を同局庁舎一階の掲示板と指定した「掲示許可書」と題する文書を交付した。

3  静岡支部長石垣隆司は、昭和四二年六月一六日、静岡局長高桑孝一に対し「ビラ・ポスター類を静岡支部として恒例的に掲示したいので許可願います」と記載した「掲示許可願」と題する文書を提出し、同月一九日、同局長から同支部長宛に「掲示の一括的許可については下記によりこれを許可する」とし、記中で掲示場所を同局庁舎一階及び地階の各掲示板と指定した「掲示許可書」と題する文書を交付した。

以上のとおり認められ、右認定に反する証拠はない。

郵便局庁舎は、国有財産法第三条第二項の行政財産であるところ、同法は、行政財産は、これを貸し付け、交換し、売り払い、譲与し、若しくは出資の目的とし、又はこれに私権を設定することができず(第一八条第一項)、右規定に違反する行為は無効とし(同条第二項)、行政財産は、その用途又は目的を妨げない限度において、その使用又は収益を許可することができる(同条第三項)旨定めている。そして、本件各掲示板における文書の掲示は、行政財産の一部を利用するものであるから、同法の右規定と前記認定の文書掲示についての双方当事者の意思表示の方式とを考慮すれば、本件各掲示板使用の法律関係は、原告主張のような契約関係ではなく、同法第一八条第三項の許可処分であると解すべきである。

したがつて、原告の主位的請求は、その余の点について判断するまでもなく、甲事件及び乙事件とも理由がないこととなる。

第二予備的請求原因について

一  請求原因1の事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、本件各撤去行為が適法になされたか否かを判断する。

1  国有財産法では、各省各庁の長は、その所管に属する行政財産を管理しなければならない(第五条)ところ、各省各庁の長は、その所管に属する国有財産に関する事務の一部を、部局等の長に分掌させることができる(第九条第一項)ものとされている。

そして、成立に争いのない乙第一号証の二、三によれば、次の事実が認められる。

郵政省の組織に属する行政機関において遂行する事業及び行政事務の用に供する庁舎等の適正な管理を行なうことを目的として庁舎等の取締りに関し必要な事項を定めることにより、庁舎等における秩序の維持、犯罪の防止、業務の正常な遂行、清潔の保持及び災害の防止(以下「秩序維持等」という。)を図るため、規程が制定され、昭和四〇年一一月二〇日から施行された。規程によれば、庁舎等の取締りに関する責任者(庁舎管理者)は、郵便局については郵便局長であり(第二条第一項)、庁舎管理者は、法令等に定めのある場合のほか、庁舎等において、広告物又はビラ・ポスター、旗、幕、その他これに類するもの(以下「広告物等」という。)の掲示、掲揚又は掲出をさせてはならないが、庁舎等における秩序維持等に支障がないと認める場合に限り、場所を指定してこれを許可することができる(第六条)。また、庁舎管理者は、右許可をする場合においては、必要な条件を付し、又は関係者等の守るべき事項を指示することができ(第八条第一項)、右条件又は指示に違反して掲示された広告物等については、庁舎管理者は、その所有者等に対し、その物の撤去又は搬出を命ずるものであり(第一二条第一項)、所有者等が右命令に従わないとき又は庁舎等における秩序維持のため緊急の必要があると認めるときは、みずからこれを撤去又は搬出することができる(同条第二項)ことになつている。

規定の解釈、運用等に関しては、昭和四一年三月一〇日、運用通達が発せられ、これによれば、規程第六条の広告物等の取扱いについて、庁舎管理者は、広告物等の掲示、掲揚又は掲出について申出があつたときは、その内容が法令違反にわたるもの、政治的目的を有するもの、郵政事業もしくは官職の信用を傷つけるようなものまたは人身攻撃にわたるものは、庁舎等における秩序維持等に支障があるものとして許可しないこと(第六条関係2(1))、広告物、ビラ・ポスター類の掲示について、組合等恒例的に掲示しようとする者があるときは、掲示申出ごとの許可に代えて掲示許可願を提出させ、あらかじめ一括的に許可してさしつかえないこと(同3)、この掲示許可は、右の許可しない場合にあたるものは掲示しないことと撤去又は搬出に関し規程第一二条第二項と同趣旨の事項とを記載した掲示許可書を交付して行うものとすること(同3、様式九号)となつている。

以上のとおり認められる。

そして、抗弁1の事実(本件各掲示許可及び付せられた条件)は、当事者間に争いがない。

したがつて、新宿局長、空港局長及び静岡局長が行つた各掲示許可及び許可に際し付せられた条件は、いずれも国有財産法、規程及び運用通達に基づくものである。

2  そこで、規程及び運用通達が原告主張のように憲法第二一条及び第二八条並びに労働組合法第七条に違反するか否かを判断する。

憲法第二八条は、勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利を保障しているが、右は、勤労者の団体を結成する権利、その団体をもつて使用者と交渉し、その他団体で行動する権利を保障しているものの、右団結権等を行使するに当り勤労者がその勤労しているところの施設を利用する権利まで保障したものと解することはできない。したがつて、原告主張のように、行政財産の管理に当り、庁舎管理者が、庁舎の用途及び目的を著しく妨げない限り、組合活動のために施設を貸与し、これを自由に使用させるべき旨の憲法上の要請は存在しないものといわざるをえない。

そうすると、勤労者の右のような施設利用権は、立法又は当事者間の契約により律せられるものとなるところ、国有財産法では、行政財産は、国において国の事務、事業、企業等の用に供するものである(第三条第二項)から、本来公の目的に供用されるべきもので、右の目的外に使用することは原則として禁止する建前になつており、ただ、その用途又は目的を妨げない限度において、その使用又は収益を許可することができる(第一八条第三項)と定めているに過ぎない。右法律の趣旨及び規定の体裁からすれば、右許可は、各省各庁の長又は委任を受けた庁舎管理者の自由裁量に委ねられているものと解される。したがつて、規程が、庁舎等の適正な管理のため、その本来の目的外の使用である庁舎内での文書の掲示について前記1で認定したような許可基準(規程第六条)を設けたことは、右自由裁量権の行使の方法として相当であり、憲法第二八条に違反するところはない。

また、前記1で認定したように、規程は、右許可をする場合に条件を付し、又は関係者等の守るべき事項を指示することができるものとしているが、右のような自由裁量による許可については、国有財産法上その旨の定めがなくとも、庁舎をその本来の目的に供用するという管理の目的を達するために相当な条件を付し、又は守るべき事項を指示することができるものと解される。庁舎は、公務員が公務を行うために勤務する場所であるから、これを公の目的に供用するためには、その施設と施設内での公務員の勤務を全体的にみて公の目的に合致するような状態に置く必要があり、庁舎の適正な管理とは、施設の機能を物理的に保持することのみならず、その施設内での公務員の勤務をも適正な状態に保たしめることを意味する。したがつて、付せられる条件又は指示される事項は、右の趣旨に適合するものであることを要する。

そこで、このような観点から、運用通達の定める掲示許可の条件をみるに、「法令違反にわたるもの」は、国家公務員の法令遵守義務(国家公務員法第九八条第一項参照)から、「政治的目的を有するもの」は、国家公務員の政治的行為制限の要請(同法第一〇二条、人事院規則一四―七参照)から、「郵政事業もしくは官職の信用を傷つけるようなもの」は、国家公務員の信用失墜行為禁止の要請(同法第九九条)からそれぞれ当然の基準であり、「人身攻撃にわたるもの」も庁舎内における公務員の勤務を秩序あらしめ、かつ、公務に対する信頼性を確保するに相当なものであり、いずれの条件も前記の趣旨に適合するものということができる。

さらに、規程は、許可をする場合に付した条件又は指示に違反した文書の撤去搬出について定めているが、庁舎が本来公の目的に供用されるもので、文書の掲示は本来の目的外の庁舎使用であること、前記の各条件は、その目的外の使用としても相当でない場合であること、庁舎管理者には庁舎を公の目的に供用する責任があることを考慮すれば、右条件又は指示に違反した文書について前記1で認定した規程の定める要件の下で一方的に撤去することは、庁舎管理権の適法な行使として許されるものということができる。

以上のような庁舎使用についての制限が組合活動上何らかの制約をもたらしたとしても、労働組合の庁舎利用が憲法第二八条の要請によるものではなく、しかも右制限が庁舎を公の目的に供用する必要から相当な基準で課されたものである以上、それ自体では労働組合法第七条違反の問題を生じないことは明らかである。

また、原告は、以上のような制限は、憲法第二一条の保障する表現の自由を侵害すると主張するが、表現の自由といえども庁舎施設を利用して思想を表現する自由を含むものではなく、右制限は、庁舎使用方法を制限するだけであつて、文書掲示者が別の時機及び場所において自己の思想を表現することを制約するものではないから、何ら表現の自由の侵害にはあたらない。

以上の理由により、規程及び運用通達は、憲法第二一条及び第二八条並びに労働組合法第七条に違反する点はないものということができる。

したがつて、新宿局長、空港局長及び静岡局長が行つた各掲示許可及び許可に際し付せられた条件は、いずれも適法である。

3  次に、本件各文書が右条件に違反するか否かを判断する。

(一) 別紙一の文書

右文書は、「闘争宣言」と題し、その趣旨とするところは、「郵政当局の『合理化』攻撃をはねのけ七一秋期年末斗争における四つの重点目標……を断固勝ちとり、同時に……佐藤自民党政府を糾弾し、……沖縄協定紛(粉)砕、佐藤内閣打倒、日中国交回復の勝利へむけ……断固斗うことをここに宣言する」というものであり、右文書が特定の内閣の糾弾及び打倒を呼び掛けるものであることは、右記載から明らかであつて、「政治的目的を有するもの」に該当する。

(二) 別紙二ないし八の文書

右各文書は、いずれも冒頭に集会名を、そのすぐ後又は末尾に時間及び場所を表示し、三ないし七項目の標語を列記し、その標語の一つとして「佐藤反動政府打倒!!」(別紙二)、「佐藤内閣打倒!!」(同三)、「佐藤反動内閣打倒!!」(同四)、「佐藤内閣打倒」(同五)、「佐藤内閣打倒!」(同六、七)、「反動佐藤政府打倒!」(同八)の文言を記載したものであり、右各文言自体が政治的目的を有することは明らかである。

原告は、右各文言は、開催予定の集会におけるスローガンを周知せしめたものである旨主張するが、仮に文書掲示者にそのような意図があつたとしても、その旨の断りも何もなく、かつ、標語部分を際立たせた(この点は、被告主張のような写真であることが当事者間に争いのない乙第八号証の二ないし八により認められる。)右各文書の記載形式からすれば、右各文言は、少なくとも同時に右各文書自体により特定の内閣の打倒を呼びかける趣旨のものであると認めることができる。

したがつて、右各文書は、「政治的目的を有するもの」に該当する。

(三) 別紙二ないし四及び九の文書

別紙二及び三の文書には、標語の一つとして、「横山の暴力的職場支配粉砕!!」(別紙二)及び「横山の野望粉砕!!」(同三)の各文言がある。右「横山」が当時の空港局長横山曠大を指すことは明らかであり、前記(二)の場合と同様、右各文書自体により横山局長を非難する趣旨のものというべきところ、同局長が暴力的に職場支配をしたり、野望を抱いていたことを認めるべき証拠はない。もつとも、証人安河内正紀の証言により真正に成立したものと認められる甲第五号証(空港支部第一六回定期大会運動方針(案))中には、「省の強権的、暴力的職場支配攻撃」あるいは「横山が……全逓空港に対して組織分断・権利剥奪攻撃を暴力的に行つてきた」等の表現がみられ、同証言によれば、横山局長が着任してから職場の慣行を一方的に実力で剥奪したことを空港支部がそのように表現したものであることが認められる。しかし、右慣行の剥奪なるものも、主として、単に横山局長が勤務時間を厳正に管理するようになつたことを指すに過ぎないことは、同証言により明らかである。

したがつて、前記各文言は、故なく郵便局長としての官職の信用と同局長の名誉を傷つけるものであるから、前記各文書は、「官職の信用を傷つけるようなもの、または人身攻撃にわたるもの」に該当する。

別紙四の文書には、標語の一つとして「横山の暴力的職場支配粉砕!!」の文言が、また、末尾に「官、横山は二度にわたり、このビラを盗み、組合に帰してきません、全逓組合員の皆さん!!この横山の強奪を許すな!!」との文言の記載がある。前者の文言が「官職の信用を傷つけるようなもの」であり、かつ、「人身攻撃にわたるもの」にあたることは先に判示したとおりである。後者の文言は、別紙二及び三の文書を庶務会計課長代理浜尾久が一方的に撤去した事実を指すものと推定できるが、右各文書が許可条件に違反していたことは既に判示したとおりであり、また、その撤去及び撤去後返還拒否の状況は後記のとおりであつて、「盗み」あるいは「強奪」と表現さるべきものではない。

原告は、仮に撤去が正当な行為であつたとしても、許可条件は当局が一方的に付したものであること、文書の一方的撤去により組合活動が阻害されること、当局側は撤去にあたりその具体的理由を明らかにしていないこと等の事情の下では、当局側の撤去を非難することは当然であると主張するが、右のような表現を用いて非難する根拠とはなりえない。

さらに、原告は、これらの文言は、文字どおり「盗取」を意味するものではなく、一方的に文書を撤去し、それを返還しないことを厳しく非難する趣旨で用いられている旨主張するが、仮に主観的にそのような意図であつたとしても、そのような使用法は、ことばの持つ通常の意味から著しく離れるものであつて、右文書が「官職の信用を傷つけるようなもの」及び「人身攻撃にわたるもの」に該当することを妨げうるものではない。

別紙九の文書は、集会の開催を通知するとともに、横山局長及び浜尾課長代理が決起集会のビラをはがし、組合に返還しないことをもつて、「正当な組合活動を妨害するもの」で、「全逓組織破壊攻撃の一環」であるとし、「このような横山の暴力」を粉砕するために決起集会に結集することを呼び掛けるものである。右の横山局長らがはがしたビラとは、当時撤去されて当局側に保管されていたことにつき当事者間に争いのない別紙八の文書を指すものと考えられるところ、同文書が政治的目的を有するために掲示が許されないものであることは前記(二)で判示したとおりであり、しかもその撤去及び撤去後返還拒否の状況は後記のとおりであつて、「正当な組合活動を妨害するもの」、「全逓組織破壊攻撃」ないし「暴力」と表現されるべきものではない。

したがつて、右文書は、横山局長及び浜尾課長代理を故なく非難するものであり、「官職の信用を傷つけるようなもの」及び「人身攻撃にわたるもの」に該当する。

原告は、許可条件は組合側が承諾していないから、文書の一方的撤去を右のように非難することは当然であると主張するが、許可条件は、許可権限を有するものにおいて一方的に付しうるものであり、前記のような表現を用いて非難する根拠とはなりえない。また、原告は、仮に許可条件が適法としても、右のような表現は庁舎の秩序維持に支障とならない旨主張するが、右主張には賛しえない。

(四) 別紙一〇の文書

右文書は、「ストライキ宣言」と題し、その趣旨とするところは、昭和四七年四月二〇日以降、反覆ストライキを独創的に積み重ね、四月末決戦段階では、四八時間ストライキによる全交運、公労協のゼネストによつて、要求貫徹まで戦い抜くことを宣言するとの「七二年春斗勝利全交運、公労協ストライキ宣言大会」名義のものであり、原告の上部団体である公労協が公共企業体等労働関係法第一七条第一項により禁じられている同盟罷業を行うことを宣言するものであるから、「法令違反にわたるもの」に該当する。

原告は、文書掲示の主たる狙いは、そのような宣言の存在する事実を組合員に周知させることによりその志気を高揚させ、団結を強固にするにあり、右文書により具体的にストライキを指令したり、ストライキに加わることを訴えたものではないと主張する。

しかし、「法令違反にわたるもの」とは、文書の内容についての基準であつて、掲示行為そのものが法令違反を構成することを要するものではなく、文書の内容が法令違反を構成したり、法令違反行為を是認しているものをいうものと解されるから、右主張は採用できない。

(五) 別紙一一の文書

右文書は、右ストライキ宣言の全文を記載し、その冒頭に、「交運、公労協統一ストライキ宣言大会に於いて、左記のストライキ宣言が採択されましたので、全組合員のみなさんに周知します」との前文を付加したものであるが、原告が公労協の下部機関であり、しかも右前文は、右宣言の法令違反の性格を払拭するような別段の断りなく、右宣言を単に取り次ぐだけの内容に過ぎないことを考慮すれば、右文書は、「ストライキ宣言」そのものと変りはなく、依然として「法令違反にわたるもの」に該当する。

4  被告の抗弁3の事実中、別紙文書撤去一覧表撤去者欄記載の者がそれぞれ所属郵便局長の指示を受けて本件各文書を撤去したことは、弁論の全趣旨により、(二)(1)後段の点は、弁論の全趣旨及びこれにより真正に成立したものと認められる乙第一五号証の一、二によりそれぞれ認めることができ、その余の点は当事者間に争いがない。

庁舎管理者は、庁舎の使用の方法が庁舎設置の本来の目的に反するときは、相当な方法により自らそのような状態を排除することができるものであり、右排除行為が相当であるかどうかは、右目的に反する使用方法の態様、排除行為による法益侵害の有無程度、緊急性の度合等を総合的に考慮して決すべきものである。規程では掲示物の自力撤去について前記二1に記載したような要件を定めているが、この要件は、庁舎管理者に対する内部的な事務処理の基準として定められたものであり、この条件にあたらなかつたとしても、必ずしも当該撤去が掲示者に対する関係で違法となるわけではない。

そこで、右認定事実によれば、別紙文書撤去一覧表の(1)、(5)、(11)ないし(13)の撤去行為は、いずれも当局側から組合側に対し各文書が条件に違反する点を指摘し撤去を命じたが、応じないため、当局側で撤去したものであり、同表の(2)ないし(4)、(6)ないし(10)、(14)、(15)の撤去行為は、いずれも同様の表現で同じ違反事項に該当する文書について既に撤去が命ぜられて、撤去され、かつ、同種の文書を掲示しないよう警告されておりながら、組合側でこの警告を全く無視し、繰返し同種文書の掲示を図つた場合であつて、本件各文書の内容、各撤去行為に至るまでの掲示者の庁舎管理者に対する対応、撤去の態様及び撤去後の文書保管方法、撤去の必要性の度合等を考慮すれば、右各撤去行為は、いずれも庁舎管理権の行使方法として相当であり、違法の点は認められない。

5  原告は、掲示文書の内容が庁舎の秩序を乱したとしても、その程度が著しく、言論そのものを禁圧しなければならないだけの必要性ないし重大かつ明白な違法性が認められる場合でない限り、一方的撤去は許されない旨主張するが、既に判示したとおり、文書掲示についての制約は言論を禁圧するものではないから、右のような場合でない限り一方的撤去が許されないものではない。

また、原告は、本件各文書は、違反の程度が軽微で、撤去しなくとも庁舎の秩序維持に支障はない旨主張するが、本件各文書の違反の程度が軽微であるとはいいがたく、原告の右主張は採用できない。

三  したがつて、原告の予備的請求も、その余の点について判断するまでもなく、甲事件及び乙事件とも理由がないこととなる。

第三以上の理由により、原告の請求はいずれも理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 桜井文夫 福井厚士 仲宗根一郎)

(文書撤去一覧表)

撤去日        撤去者      撤去文書

(昭和年月日)

(甲事件)

新宿局

(1) 46・11・27  庶務課長 村田理一     別紙一

同課長代理 山根義久

同課主事 岩田克也

空港局

(2) 46・11・8  庶務会計課長代理 浜尾久  同二

(3) 46・11・9  同右            同三

(4) 46・11・10  庶務会計課主事 村岡学   同四

同 角田繁

(5) 46・11・18  庶務会計課長代理 浜尾久  同五

(6) 46・11・19  運行課副課長 佐藤公昭   同六

同課長代理 川口勝

(7) 同右     庶務会計課長代理 浜尾久  同七

運行課長 重沢章

(8) 46・11・25  庶務会計課長代理 浜尾久  同八

同課主事 市川和夫

(9) 同右     庶務会計課長代理 浜尾久  同九

(10) 46・11・26 運行課副課長 宮本泰志   同右

(乙事件)

静岡局

(11) 47・4・19 庶務課長代理 望月久次   同一〇

庶務課主事 宇佐美

同 斉藤哲男

(12) 同右    庶務課長代理 望月久次ほか 同右

(13) 47・4・20 同右            同右

(14) 同右    同右            同右

(15) 47・4・21 庶務課長 庄司明ほか    同一一

(別紙一)

闘争宣言

郵政当局の激しい「合理化」攻撃のなかで斗つている、全の青年部の仲間たち!全国の全逓の仲間は各職場生産点で四つの重点目標と沖縄協定紛砕、佐藤内閣打倒、等政治課題を結合し、七一秋期年末斗争勝利を掲げ、いつせいにたちがあつた。わが新宿支部も十一月十九日より三六協定を切り、秋期年末斗争に突入した、我々支部青年部も今日ここに斗いのノロシをあげる!

いま郵政当局は「合理化」にみあつた職員づくりを本質的なねらいとし、目標管理の導入、労働協約の無視、権利、慣行の剥奪、処分の乱発、胸章着用の強要、ブラザー制度の導入、職場、寮と二十四時間管理、差別、減額措置、等々きちがいじみたしめつけを露骨に強行してきている。七〇年後半に職場にはりめぐらしてきた小集団管理体制を基礎としてアメリカ式労務管理をてこに職制の専制支配を結合して職場から斗う全逓を破カイしようとしているのだ、全逓組合員の脱退への煽動、第二組合の擁護と新郵会の育成強化の動向は、なによりもこれを証明している。

さらに郵政当局は、資本主義体制の経済危機をのりこえるため、我々郵便労働者に対し第二組合、新郵会をもつて企業危機意識をあおり郵政のための人柱となれといつている!

こうして思想攻撃と全逓破カイをワンセツトにし、職場の民主主義を踏みにじり職場の軍国主義化を急ピツチでおし進めてきている、これは十一月十七日政府自民党のフアツシヨ的な沖縄協定強行「採決」の暴挙と一体のものである。我々は決して許さない!

郵政当局が「明るい職場をつくるため」といつていることは決して我々のための明るい職場づくりではないことを!日本独占資本と政府自民党の「安保ハン栄論」が、ひとにぎりの支配者階級のためのハン栄でしかなかつたように、ことごとくでたらめであることを!我々は五体を通して知つている、こんにちまでなめさせられてきたこの苦しみを決して忘れることはできないのだ

我々常任委員会は職場は労働と生活の場所であり、団結の拠点であると考える、郵政当局の「合理化」攻撃をはねのけ七一秋期年末斗争における四つの重点目標

一 減額措置紛砕

一 年末手当三ケ月獲得

一 時短、反合理化

一 昨年末斗争の十二、一四労変確認

これら要求を断固勝ちとり、同時にアメリカ帝国主義に加担し再び我々を侵略戦争の尖兵にしようとする佐藤自民党政府を糾弾し、日米軍事同盟の条約化である沖縄協定紛砕、佐藤内閣打倒、日中国交回復の勝利へむけ中核となつて断固斗うことをここに宣言する

一九七一年十一月二十四日

全逓新宿支部青年部

七一秋期年末斗争勝利総決起集会

(別紙二)

十一・一〇沖縄スト連帯職場集会

十一月一〇日(水)PM12:15~

局会議室

沖縄返還協定批准阻止!!

佐藤反動政府打倒!!

秋期年末斗争勝利!!

横山の暴力的職場支配粉砕!!

全逓空港支部団結ガンバロー!!

全逓空港支部執行委員会

(別紙三)

十一・一〇沖縄スト連帯職場集会

十一月一〇日(水)

PM12:15~13:00

局会議室

沖縄返還協定批准阻止!!

佐藤内閣打倒!!

安保粉砕!!

秋期年末斗争勝利!!

横山の野望粉砕!!

減額措置断固撤回!!

全逓空港支部 執行部

(別紙四)

十一・一〇沖縄ゼネスト連帯職場集会

十一月一〇日(水)PM12:15から

局会議室

沖縄返還協定批准阻止!!

沖縄一〇万労働者のゼネスト断固支持!!

佐藤反動内閣打倒!!

秋期年末斗争勝利、減額措置撤回!!

横山の暴力的職場支配粉砕!!

沖縄奪還、安保粉砕!!

全逓空港支部執行委員会

官、横山は二度にわたり、このビラを盗み、組合に帰してきません、全逓組合員の皆さん!!この横山の強奪を許すな!!

(別紙五)

空港支部総決起集会

十一月十九日 午後12:15~

男子休憩室

・ 佐藤内閣打倒

・ 年末斗争勝利

・ 返還協定批准強行採決糾弾

(別紙六)

十一・一九支部総決起集会

年末斗争勝利!

佐藤内閣打倒!

沖縄返還協定批准強行採決糾弾!

減額措置撤回!

ところ 局会議室

じかん 12:15~13

支部執行委員会

(別紙七)

十一・一九支部総決起集会

・ 年末斗争勝利!

・ 減額措置撤回!

・ 佐藤内閣打倒!

・ 沖縄返還協定批准強行採決糾弾!

ところ 局会議室

じかん 12:15~13

支部執行委員会

(別紙八)

減額撤回・年末斗争勝利決起集会

十一月二六日(金) PM12:15~13:00

男子休憩室

服務表改悪阻止!

職場しめつけ政策粉砕!

暴力的職場支配攻撃粉砕!

減額撤回、年末斗争勝利!

沖繩奪還、安保粉砕!

反動佐藤政府打倒!

全員参加の団結集会で職場奪還を!

全逓空港支部執行委員会

(別紙九)

減額撤回、年末斗争勝利決起集会

官、横山―浜尾はこれと同じ決起集会のビラをはがし、組合に返してきません、このことは明らかに正当な組合活動を妨害するものであり全逓組織破壊攻撃の一環です。

このような横山の暴力を粉砕するために決起集会に結集し年末斗争を断固斗い抜こう。

十一月二十六日(金)昼休み

男子休憩室

全逓空港支部執行委員会

(別紙一〇)

ストライキ宣言

アメリカのドル防衛措置に伴う国際通貨体制の危機と円切り上げ、高度成長政策の矛盾結果という国内、外の経済情勢を受けて、これら一切のしわよせを労働者と働く国民の上に押しつけようとする厳しい攻撃をかけてきている。

今、独占資本とその政府は、円切り上げ、不況に便乗し予測生産などという、全くご都合主義をふりかざし、賃金くぎづけ政策をもつてたちはだかつて来ている。

一方では、国鉄運賃をはじめとする公共料金の値上げ、重税、住宅難、教育費の増大、社会保障と福祉諸政策の貧困、公害の蔓延などによつて、働く者の生活は大きく圧迫されている。

又、日本の帝国主義的佐藤自民党政府は、中国の国連復帰、ニクソン訪中という情勢の大きな変化にもかかわらずあいかわらずの敵視政策をつづけ、五兆八千億円という第四次防衛計画や沖繩返還に伴う日米の密約など、反国民的政策をつづけている。

私達交運、公労協に結集する一五〇万労働者は、これら政府、独占資本の攻撃をはね返し、一万五千円から二万円の賃上げと、合理化、労働時間短縮、最低賃金制、産業別最賃可決、労働者と労働組合の基本的権利の確保など、春斗諸要求を勝ちとり、生産点における斗いを一層強化することを確認した。

四月二〇日以降、私たちは反覆ストライキを独創的に積み重ね、四月末決戦段階では、史上最大の四十八時間ストライキによる交運、公労協のゼネストによつて、要求貫徹まで斗い抜くことを宣言する。

一九七二年四月十八日

七二年春斗勝利全交運、公労協ストライキ宣言大会

(別紙一一)

交運、公労協統一ストライキ宣言大会に於いて、左記のストライキ宣言が採択されましたので、全組合員のみなさんに周知します。

(以下別紙一〇に同じ。)

(文書該当条件一覧表)

撤去文書    該当条件(注)  該当箇所

(甲事件)

新宿局

別紙一    (二)     「………佐藤自民党政府を糾弾し、」

「佐藤内閣打倒」

空港局

同二     (二)     「佐藤反動政府打倒!!」

(三)及び(四)「横山の暴力的職場支配粉砕!!」

同三     (二)     「佐藤内閣打倒!!」

(三)及び(四)「横山の野望粉砕!!」

同四     (二)     「佐藤反動内閣打倒!!」

(三)及び(四)「横山の暴力的職場支配粉砕!!」

「官、横山は二度にわたり、このビラを盗み、………この横山の強奪を許すな!!」

同五     (二)     「佐藤内閣打倒」

同六     (二)     「佐藤内閣打倒!」

同七     (二)     「佐藤内閣打倒!」

同八     (二)     「反動佐藤政府打倒!」

同九     (三)及び(四)「官、横山―浜尾は………このことは明らかに正当な組合活動を妨害するものであり全逓組織破壊攻撃の一環です。このような横山の暴力を粉砕するために………」

(乙事件)

同一〇、一一 (一)     全文

(注)(一) 法令違反にわたるもの

(二) 政治的目的を有するもの

(三) 郵便事業もしくは官職の信用を傷つけるようなもの

(四) 人身攻撃にわたるもの

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